研究活動

先端物質創成

高移動度磁性半導体におけるスピン偏極電子の量子伝導現象

磁性半導体はスピントロニクス材料として精力的に研究されているが、従来の磁性半導体材料の多くは磁性不純物をドープするため電子散乱により移動度が低く、量子伝導現象を観察することが困難であった。我々は、有機金属ガス源を用いた分子線エピタキシー法と高温レーザー基板加熱機構を組み合わせ、独自に開発したガスソース分子線エピタキシー装置を用いることで、超高品質EuTiO3薄膜成長に成功した。その結果、低温での最高移動度は3200 cm2V-1s-1に到達し、伝導電子が100%スピン偏極した磁場下での強磁性状態において、磁気抵抗量子振動を明瞭に観察した。また、運動量空間において磁気単極子を創発するワイル・ノードと呼ばれるバンド交差により生じる、特異な異常ホール効果を観測した。

強誘電体における量子位相が駆動する散乱に強い光電流

物質中を流れる通常の電流は、電子が結晶中の格子欠陥による散乱でエネルギーを失うため、輸送過程で大きなエネルギー散逸を伴う。一方でトポロジカル電流は、電子の波動関数が持つ量子位相によって生じ、エネルギー散逸を伴わないことが知られる。強誘電体などの空間反転対称性の破れた物質に光を照射したときに外部バイアスなしに発生する光電流は、トポロジカル電流の文脈から急速に理論的研究が進んでいる。我々は強誘電体SbSIに着目し、結晶中の格子欠陥と光電流の関係を調べることで、光電流がトポロジカル電流であることを実証した。また、デバイス作製に向けて分子線エピタキシー法による分極軸のそろったSbSI薄膜の作製にも成功した。

ワイル粒子による特異な非局所量子性の観測

トポロジカル物質と呼ばれる一連の物質系では、電子状態のねじれに由来して散逸のない量子化伝導現象が生じる。とりわけ、トポロジカル半金属と呼ばれるトポロジカル物質では、ワイル粒子として振る舞う物質内部の電子状態(バルク状態)とフェルミアークと呼ばれる物質表面に現れる電子状態(表面状態)が相互作用し、ワイル軌道と称される特異な伝導現象を示すことが予想されてきた。我々は、典型的なトポロジカル半金属であるCd3As2に着目し、高品質薄膜試料においてデュアルゲート型のトランジスタ構造を作製し、試料上下表面のキャリア濃度を独立に電界制御することで、表面状態が関わる量子ホール効果の観測に成功するとともに、試料の表裏両方にまたがって存在するワイル軌道の存在を実証した。

新奇磁性酸化物導電体の開拓

酸化物磁性体では、単純な強磁性や反強磁性以外にも非共面的なスピン配置など、特異な磁性を示す物質が多く存在する。さらに、伝導電子はそのようなスピン配置に非常に敏感に影響を受けるため、トポロジカルホール効果をはじめとした、創発磁気輸送現象を示すことが知られている。我々は近年、特にルテニウム酸化物に注目して物質開拓を進め、バルク試料が合成困難であるPbRuO3や(Pb,Sr)RuO3の単結晶薄膜化に成功するとともに、磁気輸送特性を介して電子・磁気相の変化を観測することに成功した。