単一電子を周囲の電子から孤立させて移送・検出する技術を開発
現代の半導体素子は、主に電荷の平均的な流れ、すなわち電流の情報に基づいて構成されています。電子は互いに相互作用をする区別できない粒子であり、各電子が持っている量子力学的な情報は、多数の電子で形成される半導体素子に流れ込むことによって直ちに失われてしまいます。そこで、電子の量子力学的な情報を積極的に利用する固体量子情報処理の分野では、量子ドットと呼ばれるナノ構造中に単一電子を閉じ込め、その量子力学的な状態を制御する技術の開発に力が注がれてきました。しかし、量子情報素子の拡張性を確保するためには、閉じ込められた電子の量子情報を半導体基板上で破壊することなく長距離に渡って伝送する技術の開発が不可欠です。
本研究では、表面弾性波を用いて半導体基板上で単一電子を量子ドットから取り出し、周囲の電子から完全に孤立させたまま遠く離れた量子ドットへと移送する技術を開発しました。この技術を利用して半導体基板上で量子情報を長距離移送することにより、半導体量子情報素子に拡張性を与えることができます。また、この技術により、固体物理学者の長年の念願であった単一電子単位での干渉、散乱実験が可能になります。
本研究は、3年近くに及ぶ仏CNRSニール研究所との共同研究によって達成されました。
プレスリリース: http://www.jst.go.jp/pr/announce/20110922/index.html
http://www.t.u-tokyo.ac.jp/epage/release/2011/092201.html
Nature, Nature Physics, Nature Nanotechnology各紙に紹介記事が掲載されました。
Nature Japanから研究者訪問を受け、その記事が掲載されました。
報道発表:朝日新聞“電子1個を基板上で移動=超高性能コンピューターに前進”“東大、量子ドット間の電子移動に成功”、日経産業新聞“量子計算機つなぎ情報移送”、時事通信“超高性能コンピューターに前進”、日刊工業新聞“量子ドット間 電子移動”、科学新聞“単一電子を隔離 伝送・検出”、Physics world “Electrons surf between qubits”, COSMOS magazine “Electron transfer paves way for quantum computing” など国内外の多数のメディアに取り上げられました。
参考ページ:
http://www.natureasia.com/ja-jp/jobs/tokushu/detail/244 (Nature Japan)
http://www.nature.com/nature/journal/v477/n7365/full/477414a.html (Nature)
http://www.nature.com/nnano/journal/v6/n11/full/nnano.2011.194.html (Nature Nanotech.)
http://www.nature.com/nphys/journal/v7/n10/full/nphys2116.html (Nature Physics)
http://physicsworld.com/cws/article/news/2011/sep/22/electrons-surf-between-qubits (Physics world)