トップハイライト近藤の位相測定

人工原子・人工分子の電子状態

近藤一重項状態を位相測定によって初めて確認 

近藤効果は、局在スピンと周囲の伝導電子との間の相互作用によって生じます。近藤効果は電子スピンが関与する多体相関効果の中で最も代表的なものとして知られており、歴史的に、その理解が電子相関の物理全般の解明に大きな役割を果たしてきました。近藤効果の本質は、基底状態として、局在スピンと多数の伝導電子との間の多体量子もつれ状態であるスピン一重項状態(近藤基底状態)が形成されることにあるとされ、それによって局在スピンが遮蔽されます。フェルミ流体理論に従えば、近藤基底状態によって散乱される電子はスピンを保ちますが、スピンの遮蔽の痕跡が波動関数の位相のπ/2シフトとして残ります。そのような位相のπ/2シフトの測定は、近藤一重項状態の直接的な証明となることから、40年にも渡って世界中の研究者の注目を集めてきました。ところが、この近藤効果の最も基本的な性質を反映した位相シフトは、これまで実験的に確認されていませんでした。微細加工技術の進歩によって、奇数個の電子、すなわち電子スピン≠0を持つ量子ドットを用いて、局在スピン(量子ドット中の電子スピン)のエネルギー凖位や伝導電子との結合を変えながら近藤効果を制御できるようになると、干渉計の中に量子ドットを埋め込み、位相のπ/2シフトを測定する試みが世界中で数多く行われました。しかし、それらの試みは技術的な問題から成功には至りませんでした。
本研究では、独自にデザインした2経路干渉計を用いて初めて“正しい”位相測定を実現し、近藤状態による共鳴散乱によって位相シフトがπ/2になることを明確に示しました。また、位相シフトの観測は、フェルミ面における近藤共鳴凖位の形を直接プローブすることに対応しており、位相の振る舞いから、近藤効果に寄与するほぼ全てのパラメーター(近藤温度、ドット−リード間の結合エネルギー、軌道のパリティなど)を精密に得ることができました。
本研究成果は、仏CNRSニール研究所などとの共同研究によって達成されました。

  • S. Takada, C. Bäuerle, M. Yamamoto, K. Watanabe, S. Hermelin, T. Meunier, A. Alex, A. Weichselbaum, J. von Delft, A. D. Wieck and S. Tarucha, “Transmission phase in the Kondo regime revealed in a two-path interferometer”, Phys. Rev. Lett. 113, 126601 (2014).
  • 山本倫久,“近藤状態によって散乱される電子波の位相のずれを観測”CREST・さきがけナノエレクトロニクス研究領域ニュースレター第2巻 (2015) 
  • 山本倫久,樽茶清悟,“近藤効果”(Q&A),超電導web21(2015年1月号)

プレスリリース: https://www.t.u-tokyo.ac.jp/foe/press/setnws_e8c60028f0bb_20140922003_jpn.html
報道発表:中日新聞“極限まで冷やすと電子の流れに乱れ 「近藤効果」初めて確認”、東京新聞“電子の不思議 40年ぶり解決 「近藤効果」東大チームが確認”など。

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