トップハイライトバレーホール効果

人工原子・人工分子の電子状態

二層グラフェンでバレー流の生成、検出に初めて成功 

電子には、粒子としての性質と同時に波としての性質があります。一般に電子の波は様々な波長や方向を持ちます。しかし、一部の固体結晶中の電子の波は、いくつかの特定の波長や方向が安定な状態となります。そして、電子はこの特定の波長や方向によって区別できます。この自由度をバレーと呼びます。電子は負の電荷を持つため、電子が一方向に流れると電流が発生します。もし異なるバレーの電子が互いに逆向きに流れる(=“バレー流”が生じる)状況を作って互いの電流を相殺し、これを検出できれば、正味の電流をゼロに保ったまま、バレー流によって情報を伝達することが可能です。この情報伝達はジュール熱によるエネルギー消費を伴わないため、バレー流を用いた低消費電力エレクトロニクスの実現が期待されています。
本研究では、二層グラフェンにおいて電流をバレー流に変換し、電流の漏れ出しを無視できる程度の距離を伝送させた後、バレー流を電流に変換して、これに伴う電圧を検出することに成功しました。実験では、異なるバレーの電子に逆向きに作用する“実効磁場”の大きさを結晶の反転対称性の破れ具合を通じて電気的に制御しました。これにより、この“実効磁場”を利用した電流−バレー流変換の効率を広範囲で電気的に制御することが可能になりました。これは、バレー流を用いた低消費電力エレクトロニクスの実現に向けた重要な進展です。
本研究成果は、理化学研究所創発物性科学研究センター、物質・材料研究機構との共同研究によって達成されました。

  • Y. Shimazaki, M. Yamamoto, I. V. Borzenets, K. Watanabe, T. Taniguchi, and S. Tarucha, “Generation and detection of pure valley current by electrically induced Berry curvature in bilayer graphene”, Nature Physics 11, 1032-1036 (2015).

プレスリリース: 
http://www.t.u-tokyo.ac.jp/foe/press/setnws_20151116180644989504432763.html
http://flex.phys.tohoku.ac.jp/gensisou/archives/pr/20151116.pdf
報道発表:Science Daily “Valley current control shows way to ultra-low-power devices”、日刊工業新聞“バレー流 2層グラフェンで生成 東大 省エネ情報媒体に道”、EE Times “消費電力のない情報媒体の実現へ:二層グラフェンでバレー流の生成/検出に成功”、日経産業新聞“省エネ半導体素子試作 東大ほぼ消費電力なし”など。
参考ページ:
http://www.nature.com/nphys/journal/v11/n12/full/nphys3587.html (Nature physics)
http://eetimes.jp/ee/articles/1511/25/news069.html (EE Times)
http://www.sciencedaily.com/releases/2015/11/151116120804.htm (Science Daily)

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