局在スピンを遮蔽する伝導電子の量子物体「近藤遮蔽雲」を初めて観察
金属の電気抵抗は通常、温度が下がると減少しますが、鉄やマンガンなど磁石の性質を持つ元素を含む金属では、ある温度以下で電気抵抗は逆に増大します。この現象は、「磁性不純物と伝導電子との間の量子力学的な相互作用」に起因することを1964年に近藤淳博士が突き止めたことから「近藤効果」と呼ばれています。
近藤効果が起きているとき、多数の伝導電子が磁性不純物スピン(局在スピン)と量子力学的に結合し、近藤状態と呼ばれる量子物体を形成します。この近藤状態は、局在スピンの周りに雲のように広がっていることから「近藤雲」とも呼ばれています。近藤雲の大きさは、複数の局在スピンを持つ多くの物質の電気的な性質を決める重要なパラメータですが、過去50年にわたり、その観測実験の成功例はありませんでした。
本研究では、半導体の人工原子に局在スピンを閉じ込め、これが周囲の伝導電子と相互作用することで形成される近藤雲を電子の波の干渉計に埋め込み、電子干渉を利用して近藤雲の観察に初めて成功しました。この独自の観察実験により、近藤雲の大きさが、局在スピンと伝導電子の間の量子力学的なスピン結合の強さを表す「近藤温度」という指標の逆数に比例すること、また、その形状は系の詳細に依らず普遍的で、局在スピンの周りに集中して分布している一方、長い尾を引いていることを初めて明らかにしました。
本研究成果は、局在スピンが複数存在する電子間相互作用が強い物理系の理解の進展や、長距離スピン結合をベースにした新しい量子情報処理技術の開発に貢献すると期待されます。
プレスリリース: https://www.riken.jp/press/2020/20200312_1/index.html